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5. 市場細分化

市場細分化は何のために行うのか

Section titled “市場細分化は何のために行うのか”

同じ商品を買う顧客でも、求めるものは同じではありません。例えば食材を仕入れる飲食店の中には、毎日必要な分を少量ずつ届けてほしい店もあれば、まとめて安く仕入れたい店もあります。すべての顧客に同じ配送条件を適用すると、ある店には不便で、別の店には不要なサービスとなるかもしれません。

市場細分化(セグメンテーション)は、市場を、似たニーズや購買行動などを持つ複数の顧客集団に分けることです。分けた集団を市場セグメントと呼びます。顧客の違いを理解し、それぞれに合った商品・価格・流通・伝え方を考えるために使います。

分けること自体は目的ではありません。細分化した後に、どのセグメントに注力するかを選び、どんな価値を届けるかを決めます。これらは一般に STP と呼ばれます。

段階意味食材卸売業の例
S:市場細分化顧客の違いに着目して市場を分ける小口・短納期を重視する店と、まとめ買いを重視する店に分ける
T:標的市場設定自社が主に対応するセグメントを選ぶ配送能力を踏まえ、小口・短納期の店を対象にする
P:ポジショニング顧客にどう認識されたいかを明確にする「必要な量を、必要なときに届ける卸売業」を目指す

細分化と標的市場の選択は別の段階です。複数のグループに分けたからといって、そのすべてに別々の施策を実行する必要はありません。戦略的マーケティングやマーケティング・マネジメントも参照してください。

市場の分類:誰が、何のために買うか

Section titled “市場の分類:誰が、何のために買うか”

市場は、売り手と買い手が価値を交換する場や仕組みとして捉えられます。インターネット上や継続取引も含まれ、必ずしも物理的な場所に限りません。分析の目的に合わせて、買い手や購入目的から市場を分類します。

市場主な買い手・購入目的例
消費者市場個人や家庭が自らの生活・消費のために買う家庭が夕食用の食材を買う
生産財市場企業などが製造・サービス提供・業務に使うために買う飲食店が調理用の食材を仕入れる
再販売業者市場販売業者が他者へ販売するために買う小売店が食材を仕入れて販売する
政府・公共機関市場行政や公的機関が行政サービス・事業のために買う自治体が施設向けの物品を調達する
非営利組織市場団体が使命を果たす活動に必要なものを買う支援団体が配布用の食材を調達する

教科書や分析目的によって、生産財・再販売・政府などをまとめて組織市場や産業市場と呼ぶ場合があります。分類の境界は資料によって異なるため、誰が何の目的で買うかを確認します。同じ食材でも、家庭の食事用か、飲食店の営業用か、小売店の再販売用かで市場と判断の基準が変わります。

消費者市場では、地理的、人口統計的、心理的、行動的な基準がよく使われます。一つの基準で分ける方法も、複数の基準を組み合わせる方法もあります。

基準主な項目例
地理的基準国・地域、都市規模、気候、居住地都市部と山間部で配送条件を分ける
人口統計的基準年齢、家族構成、所得、職業、ライフステージなど一人暮らし世帯と子育て世帯で必要な量を調べる
心理的基準価値観、ライフスタイル、関心、性格など手間の少なさを重視する人と、調理を楽しみたい人に分ける
行動的基準使用量、使用機会、求める便益、購買状況、ブランドへの反応など時短を求める人と、価格を重視する人に分ける

同じ年齢や地域でも、求めるものは人によって異なります。属性だけで個人の好みや支払意思を決めつけず、実際のニーズや利用行動を調べて確かめます。また、性別や年齢などを使う際は、目的との必要性、公平性、個人情報の適切な扱いを考慮します。

地域、気候、人口密度、交通条件などで分けます。例えば、同じ食材でも都市部では店舗受取、配送距離の長い地域ではまとめ配送の利便性が重視されるかもしれません。

地域は配送費や到達手段を考えやすい一方、同じ地域の人が同じ価値を求めるとは限りません。地域で分けた後に、注文頻度や希望納期を調べると、実際の違いをつかみやすくなります。

年齢、世帯人数、所得、職業、家族構成、ライフステージなどで分けます。例えば、世帯人数は食材の購入量を検討する手掛かりになります。人口統計は調査しやすい項目が多い一方、属性はニーズそのものではありません。一人暮らしでも自炊の頻度や購入量は異なります。

価値観、生活様式、関心などで分けます。例えば「調理時間を短くしたい」「食材の産地を重視したい」といった志向を調べます。顧客が何を大切にするかを理解する助けになりますが、自己申告と実際の行動が一致するとは限らず、測定の設計にも注意が必要です。

実際の購入・使用や、商品に対する反応に基づいて分けます。行動的基準には、さらに次のような切り口があります。

切り口問い具体例
求める便益何の価値を求めるか時短、価格、品質、欠品防止
使用・購買機会どんな場面で使うか毎日の食事、休日の集まり、緊急時
使用量・使用頻度どの程度利用するか毎週注文する顧客、月1回の顧客
使用状況利用経験があるか未利用、初回利用、継続利用
ロイヤルティ特定のブランド・企業への継続利用や選好がどの程度か特定の店を繰り返し使う顧客、複数店を使い分ける顧客
購買準備・反応商品をどの程度知り、購入を検討しているか未認知、比較中、購入を検討中

ロイヤルティは購入頻度だけで完全に分かるとは限りません。近くに他店がないため繰り返し利用している場合もあります。行動記録と聞き取りを組み合わせて背景を確認します。

企業市場では何を基準にするか

Section titled “企業市場では何を基準にするか”

企業向けの取引では、業種、事業規模、所在地、使用量、調達方法、求める品質、納期、購買体制などを組み合わせます。企業の人数や売上規模などの属性を**企業属性(ファーモグラフィック)**と呼ぶこともあります。

架空の食材卸売業「青葉商店」が飲食店を調べる場合を考えます。

基準分け方の例確認できること
業種・用途飲食店、宿泊施設、給食事業者必要な品目、品質、納期
規模小規模店舗、複数店舗を持つ企業注文量、決裁体制、対応能力
地域配送拠点から近い地域、遠い地域配送時間、頻度、費用
購買行動小口頻回、定期まとめ買い、緊急注文受注・仕分け・配送の活動量
求める便益納期、価格、欠品防止、商品の安定供給優先して提供する価値

同じ飲食店でも、注文する人、仕入先を決める人、実際に使う人が異なることがあります。それぞれの立場の要望を確認することが大切です。

分け方が細かくても、実行に役立たなければ意味がありません。次の条件を確認します。呼び方や分類には資料による違いがあります。

条件確認する問い満たさない例
測定可能性顧客数、規模、特徴、反応を把握できるかどれくらい顧客がいるか分からない
到達可能性情報提供・販売・配送などで対象に届くか配送区域外で、対応できる経路もない
規模・収益性投資や対応費用に見合う規模・継続性があるか売上はあるが対応費用が過大で続けられない
区別可能性セグメントごとに、ニーズや施策への反応に意味のある違いがあるか分けても、必要な商品や施策が同じ
実行可能性自社の資金、人員、設備、情報で対応できるか短納期を約束しても配送能力が足りない

一般に、同じセグメントの顧客は重要なニーズや反応が比較的似ており、別のセグメントとは意味のある違いがあると、施策を考えやすくなります。完全に同じ人を集める必要はありません。条件の整理も参考にしてください。

市場細分化により、顧客の異なる課題を把握し、商品・価格・配送・伝え方を合わせやすくなります。限られた資源を、価値を届けられる顧客層に配分する判断にも役立ちます。また、顧客別の売上だけでなく、受注や配送に必要な活動も比較できます。

一方、細かく分けるほど、調査、商品設計、在庫、営業、システムの費用が増える可能性があります。規模が小さいグループは推定が不安定になり、分析した期間や地域でしか当てはまらない場合もあります。分けることによる価値と、対応するための費用を比較することが必要です。

例題:小口配送とまとめ配送を比べる

Section titled “例題:小口配送とまとめ配送を比べる”

青葉商店が、顧客の注文行動を参考に、二つのグループを仮に設定しました。各顧客はこの例では一方にのみ分類し、1か月のデータを集計します。金額は説明のための架空の数値です。

項目小口・短納期グループまとめ配送グループ
顧客数20店10店
月間売上200万円200万円
商品に直接対応する変動費120万円120万円
月間配送件数100件20件
配送1件当たりの活動原価2,000円2,000円
配送活動原価20万円4万円
ここまでの差引60万円76万円

売上と商品に直接対応する変動費が同じでも、配送活動を考慮すると差が生じます。差引は、共通費などを控除する前の金額です。配送の活動原価に固定的な人件費や設備費が含まれている場合、配送件数の減少による配賦額の差が、そのまま現金支出の減少になるわけではありません。

また、この表だけで小口顧客との取引をやめるとは決めません。顧客が短納期に見いだす価値、追加料金への反応、注文のまとめ方、余力の活用、将来の取引などを確かめます。配送回数を減らす施策が顧客の欠品を増やさないかも重要です。活動基準原価計算と差額原価収益分析により、活動の原価と、実際に変わる費用を分けて検討できます。

  1. 目的を決める。 例:配送条件を見直し、顧客の欠品を抑えながら採算を確認する。
  2. 対象市場を定める。 地域、顧客、商品、期間を決め、既存顧客だけか潜在顧客も含むかを明確にする。
  3. 基準を選んで情報を集める。 求める便益、注文件数、希望納期などを、聞き取りと取引記録で調べる。
  4. グループを比較する。 規模、ニーズ、到達手段、収益、対応能力を確認する。
  5. 仮説を検証する。 一部顧客で配送条件を試し、反応・費用・納期を測る。
  6. 見直す。 競合や顧客の変化を踏まえ、分け方と施策を更新する。

取引記録は既存顧客の行動を示しますが、取引していない潜在顧客のニーズはそれだけでは分かりません。アンケートの回答者だけが代表的だとも限らないため、統計学の考え方を使い、対象や回答の偏りを確認します。継続的に比較できるよう、顧客・注文・配送の定義をそろえることも大切です。

  1. 年齢別に分けることと、「時短を求める人」と「価格を重視する人」に分けることは、それぞれ何の基準ですか。
  2. 市場を分けられたとしても、対象顧客に情報や商品を届けられなければ、どの条件が問題になりますか。
  3. 飲食店が調理用の食材を買う市場と、家庭が食事用の食材を買う市場は、どのように区別できますか。
  4. 例題で、小口グループの配送が80件になり、売上・商品に直接対応する変動費と活動原価率が変わらなければ、配送活動原価と差引はいくらですか。現金支出も必ずその差額だけ減りますか。
  5. 顧客を年齢だけで分けると、どんな点を見落とす可能性がありますか。
解答・解説
  1. 年齢は人口統計的基準、時短や価格という求める価値は行動的基準のうち求める便益です。
  2. 到達可能性です。広告だけでなく、販売・配送などの手段も確認します。
  3. 飲食店の営業用は生産財市場、家庭での消費用は消費者市場として整理できます。分類は購入目的に着目します。
  4. 配送活動原価は80件 × 2,000円 = 16万円、差引は200万円 − 120万円 − 16万円 = 64万円です。固定的な費用が含まれる場合、配賦額の減少と現金支出の減少は一致するとは限りません。
  5. 同じ年齢でもニーズや利用状況が異なる点です。年齢は手掛かりですが、顧客の求める価値を直接確認する必要があります。

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6. 標的市場設定:対象を選び、価値を位置づける →