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8. 財政・乗数と政府債務

政府支出の増加は所得をどれだけ増やすのでしょうか。最初の支出が所得となり、その一部が消費へ回る連鎖を、乗数モデルで考えます。物価・金利・供給能力を固定した短期の分析から始めます。

閉鎖経済で C=40+0.8(Y−T),T=50,I=60,G=40C=40+0.8(Y-T),T=50,I=60,G=40 とします。計画総支出AEは、

AE=C+I+G=100+0.8Y,Y=AE⇒Y=500AE=C+I+G=100+0.8Y,\qquad Y=AE\Rightarrow Y=500

Gを20増やすと AE=120+0.8YAE=120+0.8Y、均衡所得は600です。政府支出乗数は 1/(1−0.8)=51/(1-0.8)=5、所得増は100。均衡を下回る生産では計画支出が生産を上回り、意図せざる在庫減少が増産の誘因になる、という調整を仮定しています。

45度線と計画総支出

学習用モデル。AE=100+0.8Yと45度線は所得500で交差。政府支出20増加後のAE=120+0.8Yでは600となります。

  • 灰実線:45度線
  • 青実線:AE=100+0.8Y
  • 橙破線:AE=120+0.8Y
グラフの数値を表で確認する
所得Y45度線AE(初期)AE(G増加後)
00100120
200200260280
400400420440
500500500520
600600580600
800800740760

学習用のデータ・理論値。狭い画面ではグラフを横にスクロールできます。

一般の C=a+c(Y−T)C=a+c(Y-T) で投資等を固定すると、政府支出乗数 1/(1−c)1/(1-c)、定額税の乗数 −c/(1−c)-c/(1-c) です。増税と政府支出を同額増やす均衡予算乗数は1。ただしこの結果は、閉鎖経済・定額税・物価金利固定などの条件付きです。

比例税 T=T0+tYT=T_0+tY、輸入 M=mYM=mY を追加し、他の支出が固定なら政府支出乗数は 1/{1−c(1−t)+m}1/\{1-c(1-t)+m\}。c=0.8,t=0.25,m=0.1c=0.8,t=0.25,m=0.1 なら2です。所得増の一部が税や輸入へ漏れるため、単純な閉鎖経済より小さくなります。景気が悪いと税収減や給付増が需要を支える仕組みが自動安定化装置です。

貯蓄を増やそうと全員が消費を減らすと、需要不足のモデルでは所得も減り、実現する貯蓄が増えないことがあります。これが貯蓄のパラドックスです。長期の資本蓄積の議論とは前提が違います。

将来の増税予想とリカードの等価命題

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減税を国債で賄い、将来その償還に増税が必要なら、家計が将来負担を見越して減税分を貯蓄する可能性があります。リカードの等価命題は、合理的な将来配慮、借入制約の不存在、定額税、世代間のつながり等の強い条件のもとで、税と国債の組合せ変更が消費を変えないという考え方です。流動性制約や不確実性、税の歪み等がある現実へ無条件には適用できません。現在所得だけに反応する消費関数とは前提が異なります。

債務B、利子率i、基礎的財政収支の赤字PDなら、Bt=(1+i)Bt−1+PDtB_t=(1+i)B_{t-1}+PD_t。名目成長率gでGDPが増える場合、債務GDP比bは、

bt=1+i1+gbt−1+pdtb_t=\frac{1+i}{1+g}b_{t-1}+pd_t

pdtpd_t は当期GDPに対する基礎的赤字比率です。i=0.04,g=0.02,bt−1=1,pdt=0i=0.04,g=0.02,b_{t-1}=1,pd_t=0 なら bt≈1.01961b_t\approx1.01961。収支が基礎的に均衡しても比率は増えます。資産取引等を省略した式で、実際の統計には追加調整があります。

政府需要や税の変更を売上計画へ織り込む際、マクロの乗数を自社売上へそのまま掛けることはできません。業種、地域、供給能力、金利調整を確認します。金利が動く場合はIS–LMで条件を変えて考えます。

c=0.75c=0.75 の単純な閉鎖経済で、定額減税10、政府支出増10をそれぞれ単独に行うと所得はいくら増えますか。

解答・解説

減税は 0.75/(1−0.75)×10=300.75/(1-0.75)\times10=30、政府支出は 1/(1−0.75)×10=401/(1-0.75)\times10=40。減税の一部は最初に貯蓄されるため、同額の政府購入とは効果が異なります。

学習ガイド