13. 仮説検定
何のために仮説検定をするのか
Section titled “何のために仮説検定をするのか”公平な硬貨を100回投げても、表が必ず50回になるわけではありません。同じように、標本平均や標本比率が基準値から少しずれるのは自然です。そこで、基準となる仮説が正しいと仮定したとき、観測した程度以上のずれはどのくらい珍しいかを考えます。
その珍しさをもとに、仮説を見直す根拠があるかを判断するのが仮説検定です。仮説が絶対に正しいか間違いかを確定する手続きではありません。
帰無仮説・対立仮説・有意水準
Section titled “帰無仮説・対立仮説・有意水準”帰無仮説 は「母平均は50」「母比率は0.5」など、比較の出発点です。対立仮説 は、代わりに考える関係です。
| 問い | 帰無仮説 | 対立仮説 | 検定の方向 |
|---|---|---|---|
| 平均が50と違うか | μ = 50 | μ ≠ 50 | 両側 |
| 平均が50より大きいか | μ = 50を基準とする | μ > 50 | 上側片側 |
| 平均が50より小さいか | μ = 50を基準とする | μ < 50 | 下側片側 |
有意水準 は、帰無仮説が正しいのに棄却してしまう誤りを、どの程度まで許すかの基準です。典型例は5%。仮説、方向、水準はデータを見る前に決めます。結果を見て有利な片側検定に変えると、決めた誤りの率を保てません。
例題1:母平均が50かを検定する
Section titled “例題1:母平均が50かを検定する”独立な無作為標本100個の平均が52.5、母標準偏差が既知で10とします。母集団が正規、または標本平均の正規近似が使えるとし、 を有意水準5%の両側検定で考えます。
手順1:標準誤差を求める
Section titled “手順1:標準誤差を求める”基準の仮説の下で、標本平均の標準誤差は です。個々の値のばらつき10と、平均のばらつき1を区別します。
手順2:ずれを標準化する
Section titled “手順2:ずれを標準化する”基準の平均から標準誤差2.5個分上にあります。 の下では、この統計量を標準正規分布で評価できます。
手順3:棄却域またはp値で判断する
Section titled “手順3:棄却域またはp値で判断する”両側5%では標準正規分布の左右2.5%ずつが棄却域なので、 なら棄却します。今回は2.5 > 1.96なので、帰無仮説を棄却します。
p値で考えるなら、 の下で2.5以上の絶対値が出る確率です。
約1.24%で有意水準5%より小さいため、同じ判断になります。p値は「帰無仮説が正しい確率1.24%」ではありません。
手順4:対象と条件を付けて結論を書く
Section titled “手順4:対象と条件を付けて結論を書く”「今回の条件の下で、母平均50という仮説は両側5%で棄却された。母平均が50と異なることを示す統計的な根拠が得られた」と書けます。「平均が必ず52.5」「処理が原因」「実用上も大きな差」とまでは言えません。
例題2:母比率が0.5かを検定する
Section titled “例題2:母比率が0.5かを検定する”独立に無作為抽出した400人中220人が賛成でした。。母比率pが0.5かを、両側5%で検定します。帰無仮説の下の成功・失敗の数が十分大きいので、正規近似を使います。
2 > 1.96なので棄却します。両側p値は約0.0455です。推定のときは未知のpの代わりに で標準誤差を推定しましたが、検定では仮定した を分母に使う違いがあります。
もし標本が100人で55人の賛成なら、同じ55%でもz = 1となり、5%では棄却されません。割合だけでなく標本の大きさも判断に関係します。
片側検定は「違うか」と別の問い
Section titled “片側検定は「違うか」と別の問い”上側片側5%なら臨界値は約1.645です。大きい側だけを調べるので、両側とは棄却域が異なります。下側片側ならz < −1.645が基準です。
母平均50より大きいことを調べる上側検定で、非常に小さな平均が出ても、それは上側の対立仮説を支持する結果ではありません。「差がある」と「指定した方向に差がある」を区別しましょう。
棄却できないときは、何が言えるか
Section titled “棄却できないときは、何が言えるか”「帰無仮説を棄却しない」は、「今回のデータでは棄却する根拠が十分ではない」という意味です。母平均が厳密に基準と同じだと証明したわけではありません。人数が少ない、ばらつきが大きいなどで、違いを見つけにくい場合もあります。
帰無仮説が正しいのに棄却するのが第1種の誤り、偽なのに棄却しないのが第2種の誤りです。検定力は、想定した対立仮説の下で偽の帰無仮説を棄却できる確率です。有意水準5%は、得られた結論が5%の確率で誤りという意味ではありません。
信頼区間との関係と、統計的有意の限界
Section titled “信頼区間との関係と、統計的有意の限界”例題1の母平均の95%信頼区間は52.5 ± 1.96 = 50.54〜54.46です。50を含まないことは、同じ前提と方法による両側5%検定で棄却することと対応します。異なる近似方法では境界付近の判断が一致しない場合があるので、同じ方法で比べます。
母分散が未知で小標本の場合は、正規母集団などの条件の下でt分布を使います。少人数の比率では二項分布による正確な評価などが必要になり、いつでもz検定を使えるわけではありません。
また、標本が非常に大きいと、ごく小さな差でも有意になることがあります。差の大きさ、信頼区間、調査の偏り、実際の判断で重要な差かを一緒に報告しましょう。
- 母平均100、母標準偏差が既知で12、n = 36、標本平均105ならzはいくつですか。両側5%ではどう判断しますか。
- p値が0.08なら有意水準5%で棄却しますか。帰無仮説が正しいと証明できますか。
- 母比率の検定で分母の標準誤差に入れるのは、標本比率と帰無仮説の比率のどちらですか。
解答・解説
- 標準誤差12/6 = 2、z = (105 − 100)/2 = 2.5。絶対値が1.96を超えるので棄却します。
- 棄却しません。正しいと証明したのではなく、5%で棄却する根拠が足りないと判断します。
- 帰無仮説の比率 です。その仮説の下で、観測したずれの珍しさを計算するためです。