1. データソース・調査・実験
何のために集め方から考えるのか
Section titled “何のために集め方から考えるのか”全住民の意見を知りたいのに、昼間に駅へ来る人だけを調べると、対象が偏る可能性があります。計算が正確でも、その数字が知りたい集団を表しているとは限りません。統計的推測は、どの対象を、どの仕組みで観測したかから始まります。
また、「平均が違った」と「施策によって平均が変わった」は別です。観察研究と実験研究を区別し、推定したい量に合わせてデータ収集を設計します。
既存の統計を使う:出典と定義を確認する
Section titled “既存の統計を使う:出典と定義を確認する”公的統計には、国勢調査のような人口・世帯を把握する調査や、労働・家計・企業活動などを調べる統計があります。社会の状況を継続的に把握し、比較や計画の基礎にする役割があります。歴史的にも、人口や死亡に関する記録の集計は、社会の状態を数量で理解する取り組みにつながりました。
利用時は、調査名、調査主体、対象期間、対象地域、単位、対象者の定義、全数か標本か、季節調整の有無、改訂の有無を確認します。調査年と公表年は同じとは限りません。
例えばA市の人口を今年の住民基本台帳、B市を5年前の国勢調査から取ると、基準日や対象の定義が異なるかもしれません。表の題名に同じ「人口」とあっても、そのまま比較せず定義をそろえます。
母集団・標本・標本誤差・偏り
Section titled “母集団・標本・標本誤差・偏り”母集団は知りたい対象全体、標本は実際に調べるために選んだ集まりです。標本サイズnはその大きさです。全数調査でも、未回答・記録ミス・対象の抜けは起こり得ます。
無作為抽出した標本を取り直すと、結果が変わります。この偶然の変動が標本誤差です。一方、回答しやすい人だけが選ばれる、誘導的な質問をするなどの偏りは、単に人数を増やしても解消しません。
標本抽出法を使い分ける
Section titled “標本抽出法を使い分ける”| 方法 | 手順の例 | 利点と注意 |
|---|---|---|
| 単純無作為抽出 | 全員の名簿からくじで選ぶ | 抽出の仕組みが明確。完全な名簿が必要 |
| 系統抽出 | 無作為な開始点から10人おきに選ぶ | 実施しやすいが、名簿の周期と抽出間隔が一致すると偏る |
| 層化抽出 | 学年ごとなどの層に分け、各層から無作為に選ぶ | 各層を確保できる。全体の推定では層の大きさを反映する |
| クラスター抽出 | 学級などの集団を無作為に選び、選んだ集団を調べる | 調査しやすい。同じ集団内が似ていると精度が下がることがある |
| 多段抽出 | 地域を選び、その地域の学校、さらに生徒を選ぶ | 大規模調査で実施しやすい。各段階の選ばれ方を考慮する |
層化は「すべての層から選ぶ」、クラスターは「いくつかの集団を選ぶ」という違いを押さえます。これらの複雑な抽出では、単純無作為抽出と同じ標準誤差を無条件に使うことはできません。
例題1:層の人数を反映して全体を推定する
Section titled “例題1:層の人数を反映して全体を推定する”学校600人を、1年100人・2年以上500人に分け、それぞれ10人を調査しました。通学時間の標本平均が20分と40分だったとします。
全校の平均を推定するとき、(20 + 40)/2 = 30分では、人数の違う層を同じ重みで扱ってしまいます。層の人数比を使って、
とします。調べた人数は各10人でも、知りたい母集団では層の人数が違うためです。各層内の抽出が適切か、無回答が偏っていないかも確認します。
観察研究と実験研究
Section titled “観察研究と実験研究”普段の学習時間と得点を記録するのは観察研究、新しい教材を使う群と従来教材の群に条件を割り付けて比較するのは実験研究です。観察研究の関連には、元の能力や意欲などの交絡が混ざる可能性があります。
無作為抽出は母集団から対象者を選ぶ仕組み、無作為割付は参加者に条件を割り当てる仕組みです。全体への一般化と、条件の因果効果の評価は分けて考えます。
例題2:フィッシャーの3原則で実験を改善する
Section titled “例題2:フィッシャーの3原則で実験を改善する”肥料AとBを比較したいとします。日当たりのよい場所だけにAを使えば、肥料の違いと環境の違いが混ざります。
- 無作為化:各区画へA・Bをランダムに割り付け、条件との偏った結び付きを減らす。
- 反復:複数の独立した実験単位で繰り返し、偶然のばらつきを評価する。
- 局所管理:日当たりなどが似た区画をブロックにまとめ、その中でA・Bを比べる。
同じ鉢を何回も測ることを、独立した複数の鉢を用いた反復と同一視してはいけません。何を一つの実験単位とするかを定めます。平均差の評価は2母集団の検定、3群以上やブロックは分散分析へつながります。
- 学年別に全学年から無作為に選ぶ方法と、いくつかの学級を選んで全員調べる方法の名称を答えてください。
- 系統抽出の間隔と名簿の周期が一致すると、何が問題ですか。
- 参加希望者を二つの教材へ無作為に割り付けました。全生徒への一般化も自動的に保証されますか。
解答・解説
- 層化抽出、クラスター抽出です。
- 特定の性質の人ばかり選ばれる可能性があります。開始点を無作為にしても、実現した標本の偏りに注意します。
- 保証されません。割付の公平さと、希望者が全体を代表するかは別です。