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10. 標本分布と極限定理

何のために標本分布を考えるのか

Section titled “何のために標本分布を考えるのか”

一人一人の得点の分布と、100人の平均を何度も取り直したときの分布は違います。推定や検定で評価するのは、多くの場合、平均や比率といった統計量のばらつきです。これが標本分布です。

同じnでも、独立な標本か、同じ人の繰り返し測定かでばらつきは変わります。この章の基本式は、独立で同一分布からの標本、有限な分散を前提にします。

標本平均と標本比率の平均・分散

Section titled “標本平均と標本比率の平均・分散”

母平均μ、母分散σ²なら、

E(Xˉ)=μ,V(Xˉ)=σ2n,SE(Xˉ)=σnE(\bar X)=\mu,\qquad V(\bar X)=\frac{\sigma^2}{n},\qquad \mathrm{SE}(\bar X)=\frac{\sigma}{\sqrt n}

です。標準誤差SEは統計量の標準偏差です。母標準偏差12、n = 36なら平均のSEは2で、個々の値の標準偏差12とは区別します。

成功確率pの独立な0・1標本の比率 p^=X/n\hat p=X/n なら、

E(p^)=p,V(p^)=p(1−p)nE(\hat p)=p,\qquad V(\hat p)=\frac{p(1-p)}n

です。p = 0.5、n = 100なら標準誤差0.05です。割合で0.05とは5パーセントポイントの大きさです。

大数の法則と中心極限定理の違い

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大数の法則は、標本の大きさを増やすと、標本平均が母平均へ確率的に近づくという性質です。毎回必ず単調に近づくとは限りません。

中心極限定理は、適切な条件の下で標準化した平均の分布が正規分布に近づくという性質です。

Xˉ−μσ/n は、大きなnでおよそ N(0,1)\frac{\bar X-\mu}{\sigma/\sqrt n}\ \text{は、大きなnでおよそ }N(0,1)

元の個々のデータの分布が、人数を増やしただけで正規分布になるのではありません。母集団自体が正規なら、平均の正規分布はどのnでも正確に成り立ちます。

標本平均の分布:人数を増やすと狭くなる

母集団N(0,1)の独立標本。n=1・4・16の平均の標準偏差は1・0.5・0.25。平均はいずれも0で、密度の面積は各1です。

  • 青実線:n=1
  • 橙破線:n=4
  • 緑の長い破線:n=16
グラフの数値を表で確認する
標本の大きさn平均標準誤差
101
400.5
1600.25

学習用のデータ・理論値。狭い画面ではグラフを横にスクロールできます。

平均・分散が存在すれば、分布の形が不明でも、

P(∣X−μ∣≥a)≤σ2a2P(|X-\mu|\ge a)\le\frac{\sigma^2}{a^2}

が使えます。標本平均なら右辺はσ²/(na²)です。例えばσ² = 0.25、n = 100、誤差0.1以上なら、確率の上限は0.25/(100×0.01) = 0.25です。

これは上限であって実際の確率が必ず25%という意味ではありません。一般的な分布にも使える分、正規分布などが分かる場合より保守的なことがあります。nが大きいほど上限が0へ向かうことは、大数の法則の理解にもつながります。

二項分布の正規近似と連続修正

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X∼B(n,p)X\sim B(n,p) の平均はnp、分散np(1−p)。両方の結果の見込まれる数npとn(1−p)が十分大きい場合、正規近似を使います。

公平な硬貨100回で60回以上表なら、整数60の範囲を含めるため連続修正後は59.5以上です。

P(X≥60)≈P(Z≥59.5−505)=P(Z≥1.9)≈0.0287P(X\ge60)\approx P\left(Z\ge\frac{59.5-50}{5}\right) =P(Z\ge1.9)\approx0.0287

「40以上60以下」なら39.5〜60.5にします。近似であること、境界を含むか、問題で連続修正が指定されているかを確認します。

有限母集団を戻さず調べる場合

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大きさNの有限母集団から単純無作為・非復元でn個抽出し、母集団の分散を S2=∑i=1N(xi−xˉN)2/(N−1)S^2=\sum_{i=1}^{N}(x_i-\bar x_N)^2/(N-1) と定義すると、

V(Xˉ)=(1−nN)S2nV(\bar X)=\left(1-\frac nN\right)\frac{S^2}{n}

です。標準誤差には有限母集団補正 1−n/N\sqrt{1-n/N} が掛かります。nがNに比べ十分小さければ、補正はほぼ1です。n = Nなら全数が分かるため、抽出による分散は0になります。

母集団分散を分母Nで定義する場合は補正の形が変わります。式を覚えるだけでなく、分散の定義をそろえて使ってください。層化・クラスター抽出にも、この式を無条件に流用しません。

  1. 母標準偏差20、n = 100の平均のSEはいくつですか。n = 400ではどうなりますか。
  2. 中心極限定理は、元データの分布が正規になるという定理ですか。
  3. N = 1,000からn = 100を非復元抽出するとき、上の定義による有限母集団補正は何ですか。
解答・解説
  1. 2、1です。nを4倍にするとSEは半分です。
  2. いいえ。標準化した標本平均などの分布についての定理です。
  3. 0.9≈0.949\sqrt{0.9}\approx\mathbf{0.949} です。

QC検定3級の平均値・範囲管理図では、一群の平均と群内ばらつきを一組で監視します。個々の値と標本平均の分布が違うことが、管理限界の幅を理解する手掛かりです。