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2. 機会費用と限界的な判断

「全部原価より安い注文は、断るべきか」。判断には、今回の選択で変わる収益と費用を捉える必要があります。同時に、その注文のために他の仕事を断るなら、失う利益も考えます。これは、経済学の資源配分と管理会計の意思決定が接する場面です。

概念意味例
埋没費用すでに支払い、今回の選択では取り戻せない費用返金されない過去の調査費
機会費用ある選択により失う、最善の代替案の価値設備を別の注文に使えば得られた利益
限界費用生産量を追加で1単位増やすときの費用の増分追加1個に必要な材料・加工費

固定費がすべて埋没費用になるわけではありません。将来の賃貸契約を解約して回避できる費用は、その意思決定では変化する費用です。また、まとまった注文には段取り費などが生じるため、単純な1個当たり費用だけでなく、注文全体の増分を確認します。

例題:余力がある場合の追加受注

Section titled “例題:余力がある場合の追加受注”

学習用に、次を仮定します。通常販売への影響はなく、設備には余力があり、固定費は変わりません。

  • 特別注文:100個、単価1,500円。
  • 追加の変動費:1個900円。
  • この注文だけに必要な段取り費:20,000円。
  • 他の用途を失う機会費用:0円。

受注しない場合を基準に、今回の注文によって変わる金額だけを比較します。下表の0円は「会社全体で費用が発生しない」という意味ではなく、この注文による追加分がないことを表します。

項目受注しない場合の追加分受注する場合の追加分利益への影響・計算
売上収益0円150,000円+150,000円(100個 × 1,500円)
変動費0円90,000円−90,000円(100個 × 900円)
段取り費0円20,000円−20,000円(注文ごとに発生)
既存の固定費の増分0円0円0円(両案で変わらない)
機会費用0円0円0円(他の仕事を失わない)
増分利益0円40,000円+40,000円
増分利益=追加収益−追加費用−機会費用=150,000−90,000−20,000−0=40,000円\begin{aligned} \text{増分利益} &=\text{追加収益}-\text{追加費用}-\text{機会費用}\\ &=150{,}000-90{,}000-20{,}000-0\\ &=40{,}000\text{円} \end{aligned}

これらの条件では、受注によって利益は40,000円増えます。配賦した固定費を含む全部原価が単価を上回っていても、この追加受注の増分利益とは区別して考えます。

追加受注の収益から増分利益まで

学習用の100個の注文。売上15万円から変動費9万円と段取り費2万円を差し引くと、増分利益4万円が残ります。縦軸は万円。既存固定費の増分と機会費用はともに0円です。

  • 青:売上と最終的な増分利益
  • 橙の浮いた棒:差し引く費用
  • 灰破線:費用控除前後の残額をつなぐ線
  • 表は円、グラフの縦軸は万円
グラフの数値を表で確認する
項目利益への増減(円)差引残額(円)
売上収益150000150000
変動費-9000060000
段取り費-2000040000
既存固定費の増分040000
機会費用040000
増分利益(最終残額)040000

学習用のデータ・理論値。狭い画面ではグラフを横にスクロールできます。

青い棒は売上と最終的な利益を、橙の浮いた棒は途中で差し引く費用を示します。棒の高さは、変動費9万円・段取り費2万円です。費用を引いた後の残額は、順に6万円、4万円となります。

設備が埋まっていたらどうなるか

Section titled “設備が埋まっていたらどうなるか”

注文を受けるために、別の注文で得られる限界利益50,000円を失うとします。それ以外の条件が同じなら、

増分利益=40,000−50,000=−10,000円\text{増分利益}=40{,}000-50{,}000=-10{,}000\text{円}

この場合は、特別注文を受けるより、最善の代替案を選ぶ方が10,000円有利です。機会費用は帳簿への支出として現れなくても、判断には重要です。

活動基準原価計算(ABC)は活動と原価の関係を可視化します。ただし、ABCで配賦された原価の全額が、追加受注によって増えるとは限りません。見積もり、受注処理、配送などの活動を特定した上で、今回の判断でどの資源消費と支出が変わるかを確認します。

また、短期の追加受注と、長期の価格設定は違います。継続販売では設備更新や固定費の回収も必要です。品質、納期、通常顧客への影響、将来の価格への影響も検討します。この例題は条件を限定したモデルであり、個別企業への受注推奨ではありません。

上の例で、失う別注文の限界利益が30,000円なら、特別注文の増分利益はいくらですか。また、過去に支払い済みで返金されない調査費10,000円は、この比較に含めますか。

解答・解説

増分利益は40,000−30,000=10,000円です。過去の返金されない調査費は、受注してもしなくても変わらない埋没費用なので、この選択肢の差額には含めません。ただし、会計上の記録から削除するという意味ではありません。

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